昭和の生き証人 入江相政(1905-1985)

【人物概要】公卿の家系に生まれる。祖は冷泉家。父も天皇侍従。学習院教授から侍従になって昭和天皇に50年奉仕し、侍従長退官の前日に急死した。大戦前後の天皇に仕え、詳細且つ膨大な日記を遺した。エッセイストとしての著作も多い。戦後の皇室外交は彼が確立したとの評価がある一方で日記等の記述から皇后の美智子妃に対する態度など皇室にとってあまり芳しくない記事も公表されることとなった。
二・二六事件関連記事として、いくつか借りてきて読んでみた。お公家さんだし皇室がらみだし、と敬遠していたが読んでみればそうでもなく。とりあえず有名どころの『侍従とパイプ (中公文庫 R 22)』から。他に2冊、軽そうなエッセイで『余丁町停留所 (中公文庫)』『日日是好日(ニチニチコレコウジツ) (中公文庫)』。古い東京の地理的な話題や公卿ならではの生活習慣や当時の文化が垣間見えて面白かった。あとは文芸春秋編『昭和天皇の時代』。こっちは司馬遼太郎福田恆存他2名による対談が白眉だった。『入江相政日記〈第1巻〉』は全12巻中の1巻だけ借りて試し読み。朝日新聞から文庫で出ているのが有難い。
昭和天皇に関する楽しいエピソードをひとつ。葉山の海岸でテレビか映画のスタッフ達が怪獣特撮の撮影をしていたところ、葉山御用邸へ滞在中に海洋生物採集をしていた昭和天皇がいらっしゃった。慌てるスタッフ達に天皇はひとこと、怪獣の着ぐるみを見ながら「うちにもコレが居るよ」とガラモンのように胸のあたりで手を垂らして、傍に居た入江侍従長を指差したという。どこで読んだ話だったやら、出典が見つからないので真偽の程は分からないが、入江侍従長のエッセイから垣間見える昭和天皇の人となりからしても実にありそうなことだ。