前衛下着道―鴨居羊子とその時代@川崎市岡本太郎美術館

前衛下着道―鴨居羊子とその時代
50年前の大阪で、カラフルな下着ショウを突如開催して「チュニック」というメーカーを立ち上げた鴨居羊子という女性がいた。
今でこそ「カワイイ下着」は当たり前だが、それを日本で最初に作って売ったという意味では革命児である。実用一辺倒の地味な下着を葬って、女性自身が着て心地よい下着を広めるんだという信念を持って起業し、成功を収めた稀有な実業家でもある。
本業である革命的下着デザインと会社経営者としての活動と並行して、ショウ演出・執筆活動、画家・人形作家としての創作も会社のデスクで続けていたという。
本人は自分が前衛とはこれっぽちも思ってなくて、私が正道なんだ!くらいの勢いだったんじゃなかろうか。自分の成すべきことを分かっている人間は強いな、というのは自伝『わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい』(ちくま文庫)を読んだ感想だけど、絵画作品やデザインなどの言葉に拠らない作品群からは全く違う印象を受けたので、ひどい体調を圧して無理してでも、現地まで足を運んだ甲斐はあったと思う。
絵画のモチーフは女性像と動物が主であり、それは彼女自身と、終生愛して倦むことのなかった野良犬や野良猫が投影されているのだろう。主と従ではなく彼らと対等な個の関係を結び、共に生きることを望んだという世界観で描かれた絵画は、現在でもファンが多く、作家の田辺聖子を始めとした熱心なコレクターがついているそうだ。
三島由紀夫の「薔薇刑」や土方巽の「鎌鼬」で世界的に知られる写真家、細江英公に託した手製の人形の写真群や、岡本太郎が自ら撮影した下着ショウの写真(カタログの表紙)など、同時代に生きた芸術家との交流(他に今東光司馬遼太郎他)についても言及されている。
メリヤスの下着からカラフルなナイロン下着革命を経て、現在はオーガニックブームとやらで自然素材・無漂白の綿や麻などに回帰する一群も居たり、一方で機能重視の重装甲みたいな下着が売れたり、画一のトレンドはもはや存在しない。来るべき次世代の下着はどんなものになるのだろう。